Vmaxに乗った

何を今更…と言う方々はたくさんおられようが、やっぱり感想を述べずにはいられない。先日初めてVmaxに乗せていただいた。

国内モデルを小一時間。永らく大型を跨いでいない私にもたいへん乗り易いマシンだった。"スポーツ走行するドラッグマシン"である。コーナーでどんどん倒し込める。だからと言ってそう簡単に曲がってはくれないけど。ちょっと寝ているフロントフォークのおかげで街中の低速コーナーじゃオーバー気味になる。でもこのバランスでまとめた設計に頭が下がる。

乗る前は、トルクの塊みたいで素人なんかの手に負えないんじゃないか、と不安になったし、また実際に走る直前に取りまわしてみたら重いし回転半径大きくて全然動かない。シートも幅広で両足の前半分しか地面に着かない。これで間違ってアクセル多めに開けたらバイクだけすっとんで行きそうな気もしてた。

が、

エンジン始動して跨ってみると、シングル、インライン4、パラツインしか知らない私にはV4の振動がなかなか心地よく、多少慣れが必要なクラッチもゆっくりつなげば発進できた。白バイのおじさん達が言っているようにアイドリングで発進も可。
走り出すと世界が変わる。重量を殆ど感じない。軽いのである。重心が低いが故か、倒してもすぐ起き上がってくれる。何より嬉しかったのは、走行中にバイクの存在を感じさせないことである。停車中のVmaxの質感があまりに強大なので、乗せて「もらって」る感が出ると嫌だな、と思っていたのは杞憂だった。視界の殆どはハンドル上の景色だけなのである。良いバイクはバイクに乗ってることを感じさせないものである。目に入ってくるのはトップの(それが灯ることは一度も無かったけど)シフトタイミングインジケータとメーターだけ。タンクメータは顔を下に向けなければ視界に入らない。(まあ、TDRからの伝統?)低速域からの加速は緩やかな二次曲線…かな?とにかく右手には爆弾を抱えていると思った方が良い。

シャフトドライブ特有の若干大き目のバックラッシとバックトルクを気にしながら街中ではせいぜい四速まで。街路では三速までで事足りる。高速道路に乗って五速を使うのだけど異常に回転が低い。3500rpm前後までの低回転域は素人向けにジェントルな特性のようである。

高速で少し開け気味にしながら遊んでみるとやっぱり5000以上は遠慮が入る。急に開けたら走行中にホイルスピンが発生できるのかな…とか考えたけど、試乗前の同意書の文面が思い出されて怖気づいた。ヘタレだ。何度かバイクだけ持って行かれそうになったけど、あの独特な形のサドルのおかげで助けられる。前傾があまりないので、このへんは要注意である。

少し狭い道でのコーナリング、この時初めてやっぱりヤマハだなぁと感じた。倒すことに躊躇しなくて良いし、見た方向に曲がれる。曲がんないけど。


今、ヤマハは経営状態が悪いらしい。Vmaxのモデルチェンジは海外を含めカラーリングだけだし(国内向けはそれすらない)、別の意味もあるだろうが新しいバイクの設計は日本では今後やらないと言っている。残念なことだ。
思うに、あの自主規制って奴は取れないのだろうか。経営が苦しくて技術者が新車開発ができないのなら経営者が頑張ってその枷を取っ払ってほしい。二位や三位で良い政府が云々言うのだろうが、現在のバイクで自主規制を外すだけで市場は活性化すると思うんだ。
Vmaxの場合、そのポテンシャルの実に1/4が削られている。これは本当に馬鹿げいて、そして非エコなことだ。原発をやめて火力発電に頼った結果、自分の首にかけたCO2排出枠のしわ寄せがクルマやバイクに及ぶ。それは、日本の国力を低下させている、と言う発想は無いのだろうか。


もはや日本では一時期以上の性能のあるエンジンは作れなくなっている。海外の規制が厳しくなっているからこそ、日本国内だけは全てを解放し、極端な性能(別に出力だけじゃない)の製品を追及するのだ。そう、規制のある諸外国のユーザがそれこそ個人輸入してでも欲しがるような。改めて思い知るべきは、資源のないこの島国の売り物は、そのような製品以外に無いってことだ。

海外生産のオートバイは、今のところ30年以上も退化したような様相である。しかし、その種を蒔いてしまったらあとはジリ貧で生産国が追い上げてくる。現に出力だけを見れば、中国製のカブコピーエンジンの出力は日本製をはるかに上回っている。ヨーロッパはどうか。抜くべきはイタ車とドイツ車である。前者は上位から下位までのラインアップが良く、値段幅も大きい。趣味性の高い大型車は極端に豪華・高価である。後者はその豪華な大型車しか作らない。イタリアに低排気量車を供給しているのがスペインである。100馬力規制のフランス車は語るに足りず。英国はどうか。この国のエンジンは良くも悪くもフリーダムである。誰でも作れるが故に、'80年代の日本的な意味での傑作は少ない(私には「伝統」が魅力には思えない)。アメリカはどうか…一社しかないので参考にならない。ビューエルの喪失は痛かった。大型取ったからハーレーなのね、的な没個性は未だに感じているし、スムースでモーターみたいに回る電子制御エンジンのハーレーって存在理由が限りなく透明に近い。

奮起せよ。国内メーカー。このままじゃ駄目だ。エンジンの「性能」が指す本当の意味を再認識せよ。出力を抑えて正しい排気ガス(笑)を出すのは、昔のエンジンから進化していないと同義だ。そんなエンジンは誰でも作れる。もっと尖がったモノを作れ。それを乗りこなせと言うのならライダーは自ら進化する。何も問題はない。

一生付き合っても良いと思える国産バイクは少ない。
しかしVmaxは、それを降りたとき、私は軽い躁状態になっていた。