Under COVID-19: 最新日本風土記 (1)
先日、とある地方のホテルのコインランドリーで、コロナの報道が日本の一般人にどう言う恐怖を与えているかを知る端的な出来事に遭遇した。いや、御大層なモノじゃなく、みみっちい庶民的な世間話だが、とっても興味深かった。この文書は記憶の新しい内に残したメモを元に書いているが、一つ一つのセリフは厳密には正確じゃない。だいたいそんな内容だった、て事で。
その場には二人の男性が居て、一人は背が低くて顔の赤い人。もう一人はやや年配で髪が少しボサついた人である。前者をチビ、後者をノッポ(と言う程痩せてはいなかったが)と呼ぶ。
構図はチビがノッポに絶叫し、ノッポはそれを迷惑そうに哀れんでいる、って感じ。私もランドリーを使おうとしていたが、それを見て、チビのわめき声にちょっと引いて、廊下の角の向こうから一部始終を聞く羽目に。
諍いのもとはコインランドリーで、ノッポが乾燥機に残っていたチビの洗濯物を勝手に備え付けのカゴに出して、その乾燥機を使っていた、ってことらしい。それをチビが怒ってた。わからんでもないが。
そんな事はあるあるで、私もそうする。洗濯機と違い、乾燥機は時間に正確で、100円当たり30分+クールダウン5分くらい。クールダウン時間が終わった時点で取りに来てない、って事は、いつ来るかわからないわけで、非常に不本意ながら、他人のパンツやシャツをつまんでそこらに放り出す。この待ち行列には何か名前があった。今は無き公衆電話の待ち行列理論で、女子高生の電話利用時間が長ければ更に長くなる、って奴。並らぶべきじゃない行列もあるって事だ。
チビわめく。「何でこの時期に人の洗濯物触わるんじゃい。」「何でカゴに入れとんじゃい。」「俺はタイマーかけて取りに来とるんじゃ。5分や10分も待てんのか。」
ノッポ「いや、現に目の前で止まっていましたし・・・」
チビ「じゃかあしい!」
ノッポ「なら乾燥機止まる前に来るべきなんじゃありませんか。私もそうしていますし。」
チビ「じゃかあしい!」
ここで私の立位置は完全にノッポ側。ノッポは他にもいくつか反論してたようだが、そのたびに場をわきまえないチビの絶叫が妨げる。チビはバリバリ感情的、結局、話をさせる気はないようだ。
雄叫びの中でチビは「タイマー」を連呼してたから、最近使い始めたのだろう。にわか意識高い系、って奴かな。他人に触られたくなければ、終わる前に行かなきゃ意味無い。タイマーなんか使わなくても来る人はちゃんと来る。
特にCOVID-19で人の洗濯物なんて触れたくないが、近くに消毒液はあったな。5分や10分?うん、私なら先の理論で待てないな。
チビ再び「俺はまた洗って乾燥し直しじゃ」「部屋出ると電気が切れてエアコンもテレビもスイッチ入れ直しじゃ」
そこかー。それ、ここに泊ってる人みんな知ってる。
「この1時間ー体どうしてくれるんじゃ」
「ええ、どうしてくれるんじゃ」
「言ってみい、どうしてくれるんじゃ」
重要な事なのか、最低3回は言ってた。それがそのたびに大きくなる。息を吸う音も聞こえてた。面白いんで食堂の椅子に移動したら、同好の数人がニヤニヤしながら座ってた。野郎ばっか。土建屋の兄ちゃんとか、どこかのメーカーロゴの入った作業着の人、白髪の爺さん。
ノッポ「どうすればあなたは納得するんですか?」
チビ「じゃかあしい!知らん、お前が考えろ!」「俺はまた一時間無駄にするんじゃ。」
ああ、これは金を要求してるな。ヤクザかも。ノッポから言い出さないと、恐喝で有罪だってチンピラでも知ってる。
ノッポは言葉を止めてる。チビが何を叫んでもずっとそうなので、チビは諦めた様子。
チビ少し小さな声で「また洗いからや。金も払わんのかい。」
ノッポ「洗濯機代は払いますよ。取って来ます。」
チビ「おう、300円持って来い。」
へえー、チビは乾燥一回か。
金額的には結局そうなるよね。以前別のホテルで洗濯機が止まった人にホテル側がお金返してた。そう、何があっても常識的にはそこ留まり。
ランドリー室からパタパタ出て来たノッポと目が合った。苦笑しながら天を仰いでた。
缶コーヒーを飲んでたら、数分後ノッポが戻って来て食堂のテイツシュに硬貨らしき物を包み、消毒液を浸してた。なかなか気が効く。お金が-番汚ないもんね。
で角の向こうに持って行った。
ノッポ「持って来ました。消毒液で濡れてます。」
チビ「そこに置け」
何かブツクサ言いながら1~2分したらチビが黙って出て行った。ノッポの心遣いに気付いたのか。顔見たらマスクから鼻が出てたよ。案だけ叫ぶのなら、そこはちゃんとしろよー。そのあとそのランドリー室に入るのに。あ、マスクには裏表もあるからね。
ノッポはそこで待機している。エレベーターで一緒になりたくないのか。しばらくしたら出て行った。
まあ、こうしてチビは小銭を稼いだわけだ。よくわからん関西系?名古屋系?朝鮮系?のチビ、今の山手線とか絶体乗れないだろうなぁ。山手線の乗客が全員互いに絶叫し合ったら、ちょっとワールドニュースかも。
観客、いや、聴いてただけのー同、納得の試合だった。なんか頷いてる人も居た。お前ら、なぁ。私もか―。
可笑しかったのが、ランドリーに入つたらティッシュに包まれた百円玉があった。
まあ、平常時ならノッポが「負けて勝った」で終わるだけなんだけど、今はCOVID-19。それでも、チビが大絶叫でビビっていたのが異常だった。もう、なんか全身全霊で大声大会してた。ちょっと見てみたかった気もするが、絶叫のツバは浴びたくなかったし。
これがケンカになるとおまわりさんが来てたかも知れない。チビのビビリ、あるいはノッポの冷静さで平穏に終わったわけだ。
ここからはただのカッコ付けなんだけど、COVID-19のような災害って基本的に自己防衛だと思う。だからこそ医療スタッフの働きは尊いのだし、罹患を他人に責任を取らせようなんて奴は診なくて良い。
突き詰めれば、この災害を怖がる程度は、各人が日々どれだけ大切に過ごしているかで変るだろう。怖けりゃ死ぬまで外に出るな、って事。それを生きている、と呼ぶのなら。
新しい社会様式?それってこんな日常にするのが目標なのか?