下を向く理由

ぎざぎざの傍らで
 

私が動かせるこの小さな石をよけたところで
そこにあなたがいないことはわかっている
ずっとずっと探しているあなたはいなくて
悲しくて手を休めるのだけど
そうしたら寂しさがこみ上げて来て
それを静めるためにまた手を動かすのです
 
逝ってしまった、と皆は言う
失ってしまった、と皆は言う
還らぬ人、と皆は言う
 
もしかしたら喪われたのは私たちの方で
今頃あなたも一所懸命探してくれているのかも知れない
でもそう思えるのは手を動かし続けている間だけで
だから今も手を休めることができないのです
 
いつものことなら
一人ひとりが抜け落ちる髪のようにひっそりと召されていくのに
神様は私から引きちぎるようにあなたを離してしまった
それがあなたと私の間にぎざぎざの断崖を作ってしまったかのようです
 
涙は枯れるなんて誰が言ったのだろう
塵埃に乾く涙は頬に幾筋もの跡を残すばかりで
だから私は下を向いて手を動かすのです
 
私に話しかけないで下さい
この手を止めないで下さい
いつまでかわからないけれど探し続けさせて下さい
そうしないと私が私でいられない気がするのです
 
私が探しているのはあなただけれど
そこに見つかってしまうのは私かも知れません
そう確信してしまうのがとても怖くて
だから今は
今はまだ私があなたを探しているのです
 
 
※この文章は特定のモデルの方がいるわけではありません。