過ぎ去るモノたちへの罪滅ぼし

PDA化粧直し
 
 長年NECのモバイルギアMC-MK32と言う小型端末を、主にテキストエディタとして使っている。かなり昔、私の卒論はNECの文豪mini5Gなるワープロで書かれたが、その時とほぼ同じ液晶サイズ(24ドット、とか言ってた奴だ)、表示文字数、少々間抜けなかな漢字変換、バックライトが無いのも同じ、とノスタルジーあふれる機器である。つか、この機器自体が1997年製の過去の遺物である。しかし、文豪はV20なる8bit、16bit混在プロセッサ上で8bit OS、かのCP/MをROMで走らせていたのに対し、こちらはMS-DOS6.22が起動している。サイズに至っては、フロッピーやプリント機能は無いので、体積比で20分の1くらいか?
 私も電子手帳使いのキャリアは誰にも負けないくらい長いが、こんなに長い間使い続けている機器はない。まあ、PDAと呼ぶにはちと無理があるサイズなので、手帳のようには持ち歩かずに、専らテキスト打ち込み専用機であり、そのため他のPDAと共存していたわけである。
 
  ところがこの機器はもうかなりのご老体なので、塗装された外装がむごい状態になってきた。元々は艶消しの黒に近い紺色、まるで起毛したかのような少し弾力性のある塗装だった。これは表面に付く小さな傷を隠すための塗料だが、ここにきて表面が溶け始めて、粘つくような状態になってきた。指を密着させて表面を強くこすると、ねっとりと塗料がまとわりつく。以前のゼロハリバートンの取っ手のゴムと似たような状況である。
ゼロハリと違い、これは塗料の問題なので、塗り直しをすることにした
塗り直すには、まず現在の塗料を落とさねばならない。表面をカッターの歯などで削ぐと塗料が刃に乗ってくるのだが、拉致があかない。ここは溶剤を使った剥離が正解である。
まず、幾つかのWEBサイトを参考にしながら分解する。特に液晶部分には気を使うが、何とかものを壊さずに分解できた。やはりプラスチックの造形はmade in Japanに限る。
プラスチック塗装を剥がすにはイソプロピルアルコール(IPA)が良いらしい、とプラモデル製作のサイトで見かけた。下手な溶剤を使うとプラスチックが溶ける。分解した部品の裏側に素材がABSと刻印されていた。なのでIPAは有効である。
IPAは、どこのホームセンターや自動車用品店でも売っている燃料タンクの「水ヌキ剤」だそうで、その道の人々には有名らしい。成分表示にIPAと書いてあるのがそれだが、商品によって純度が異なる。買うのはもちろん100%品が良く、なぜかカー用品で縁のあるリンレイだったか家庭食器洗剤会社のものが100%だった。中には加水されて70%台のものもあるから用心が必要だ。
 因みに、商品はディーゼル用とガソリン用が分けて売ってあるのだが、同じ成分、殆ど同じ濃度(差は3%以下、むしろ会社間の差の方が大きい)なのはどうしてだろうか。アルコールは親水性なので、燃料と混ざって消費され、水が抜けると言うわけである。防錆効果を高らかに謳っている製品は多いが、それに相当する成分を見かけたことは無い。そりゃ、水が抜けるから錆びないだろうけど、その製品だけの特長じゃなくって、目的だろ?
 
 一本150円くらいのそれを5,6本買い込み、分解部品が入るサイズのプラスチック容器…私の場合はヘッドフォンを買ったときのブリスターパッケージ、に流し込み、部品を浸ける。火気厳禁だ。外でやるのが良い。できれば何かサランラップみたいなもので蓋ができると効果が高い。百円ショップでタッパーウェアのコピー容器を購入するのがベストかも知れないが、結構パーツが長いので、サイズを選ぶ。
 
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上蓋外側の、液晶を支えるクッションスポンジとゴム台座。これらは剥がさないまま処理しても良かった。
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 同様に上蓋内側で液晶とスピーカーを支えるクッション材。これらも剥がさない。スピーカー部は塗装すると厳密には塗料が付着するが、ま、ビープ音だけだし。
 
 尚、液晶の裏側を支えるスポンジや、随所に貼られたクッションスポンジはきれいに剥がしにくいのでそのまま浸け
る。ゴム足は外して後で両面テープで貼り直すことにした。あ、それと元から塗装されていない部品は当然再塗装しないから剥離もしない。製造番号などが書かれたステッカー類は一旦剥いで、後で両面テープで復元する。このあたりの小物は機能には全く関係ないが、ちゃんと処理して復元すると新品の感覚が戻ってくる。
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 さてここからが本番である。
 IPAに浸けたからと言って、泥汚れを水で洗い流すようにはきれいに取れない。数時間後、ずいぶん揮発したけど、金属塗装の剥離剤と違って、引き上げればきれいになっているわけではない。表面を歯ブラシでこすると塗装が溶剤に溶け出す。おっと、その前に、ディスポのゴム手袋を使うことをお勧めしておこう。ブラシで満遍無くこする。取りにくい場合も、力はいれずに時間をかけてこすってやると取れてくる。この後部品を水洗いするのだが、注意しなくてはならないのは、部品を取り出す前になるべく部品の内側、特に液晶の保持スポンジから溶液を払い落とすことだ。この部分に塗料が溶け出した濃い溶液を残したまま水洗いすると、塗料が再定着してしまう。
 
 大量の水で洗って乾かすと空色になった。プラスチックの地の色ではない。どうやらこの色はIPAでも落とせなかったプライマーのようだ。それならそのまま使うことにする。
 部品の非塗装部分をマスキングする。これまで塗装されていなかった部分を塗装すると、塗膜の厚さのために何らかの組み立て上の不都合が生じる場合がある。電池カバーやコネクタカバー、スライドスイッチ、液晶裏面に当たるスポンジ部分などに模型用のマスキングテープを貼っていく。
 
 再塗装に使うのは、筐体の素材であるABS樹脂に対応したものなら何でも良いが、私は水性の黒スプレーにした。鼻につく匂いがなくて良い。しかしそのままでは定着が不安なので、乾燥後、更にクリアー塗装をする。ホームセンターブランドのアクリル用クリアにしたが、なんか表面がざらついてしまった。元々が艶消し黒だったのでまあいいか。
私は塗装が下手である。気が短いのか、どうも一気に厚塗りをしてしまって、塗料が垂れたり、濃淡ができたりする。スプレーの噴射が近すぎるのかも知れない。
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 で、また組み立てて、先ほどの付属品を戻してみるとなかなかよい。これまでは黒と言っても濃い群青色だったのだが、正しい黒になって全体が引き締まった感がある。塗装されていないキーボード部分は元の深い青に近いが、黒とのコントラストも悪くない。何よりもこれまで手にべたついてきたものがなくなった。
 で、まあ、この文章は、組み立て後にテストとして書いているわけだ。
 分解時に思ったが、このPDAの部品点数はとんでもなく多い。薄い基板の両面にあふれるほど部品が載っている。こりゃあ高いわ。
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 右に見えますのは6MBのメモリ。ドーターになってる。にしても部品多過ぎ。ま、そこがNECの良いところでもある。右上の電池のスプリングに付いているのが自作の極小の充電スイッチ。これを入れると下の写真。(真似して壊れても知らんよ。)
 
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写真を良く見れば、専用充電池と出ているのがわかるだろうか。これは無論フェイクである。今時、現役の専用充電池なんて手に入らない。種を明かせば、以前行った小細工だが電池のマイナス付近にある接点(専用充電池の側面が一部金属がむき出しになっており、そことマイナス極を短絡することで、専用電池と見せかけている)とマイナス極を小さなスイッチを介して接続し、ボディに約1mmX5mm程度のスリットを彫って内蔵したものである。このスイッチを切れば普通の単三電池が使え、入れれば充電可能な二次電池が本体で充電できるようになる。但し、純正の600mAh(だっけ?)2本の充電池をフルチャージするのに10時間くらいかかるそうで、今時の2500mAhなら二日近くかかる勘定だ。ま、ACアダプタ挿しっぱなしで、電池が傷んだら、一般のもので交換すればいいだけ。
 
 今だから言うが、実はこのモバイルギアと、HPのやはりDOSベースのPDAである200LXを購入したときは、非常に運が良かった。200LXを最初に買ったのだが、大手OA機器メーカが全国展開するチェーンストアでクレジットカード払いにした。ところがほど無くして、何とその店が畳んでしまって、約七万円の請求が来なかった。
一方、このモバイルギアはジャンク品としてHARDOFFで500円で買ったものだ。因みに定価は83000円。見ると電源入りません、とメモが貼ってあったが、蛇の道は蛇、ごにょごにょすると案の定、起動できた。知識は力。我ながら、なんてエコな人間だろうか。その後、他の店でこの機械の付属品一式も500円で入手した。いやー善行はするものだ。
 このMCーMK32って型はシリーズの最上級品である。暇なときにDOS化してみたが、まあ200LXの方がプリインストールアプリも共存できて良かったね。でも今回の化粧直しで、もう少し寿命が延びそうです。
 
 え?分解写真が無いだろって?ぐぐってくれい。そもそもブログ書くためにやったんじゃない。