The Poorest's of Hobby - ハイレゾもどき音楽

 最近、いわゆる「MP3プレーヤー」を買った。

 今時のポータブル音楽プレーヤーはMP3,WAVはもちろん、無損失圧縮のFLAC, APEなども当然のように対応している。M4Aも然り。DSDに対応するとなると高性能な1ビットDACが必要になるので価格帯がぐんと上がる。まあ、とは言ってもポータブル型は100ドルもあれば立派な金属筐体のハイレゾモデルが購入できる。
 しかし、ハイレゾに特化したような機種は、逆に機能が落ちることがある。まあ、FMラジオとかBluetoothなんだが、これらはあれば便利。削除される理由はあまり見当たらない。
 購入したのはAGPTEK G6とか言うモデルで、送料込み3k円未満。小型のクリップ付きの奴である。

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色は黒です。ホコリ多いな

 この機種は主に「マルチメディアチップ」「Bluetoothチップ」「FMラジオチップ」そして幾つかのメモリ関連ICが実装されている。最初の「マルチメディアチップ」が万能ICで、小さなディスプレイドライバ、ヘッドフォンドライバ(デジタルアンプ)、各種デコーダー、録再用AD/DAコンバータなどを含んでいる。これにFMチューナーチップを繋ぐとFMラジオになる。Bluetoothチップを繋ぐと外部機器を鳴らすことができる。これらの機能が本当に小さなICに収まったのは、携帯電話が普及してくれたおかげである。

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単四電池とのサイズ比較。動作は充電リポ電池。USB MicroBでPCに接続、充電。

 ただ、ギョーカイの方々の言うところの「ハイレゾ」に届くかと言えば難しい。CDから引っぺがした程度のwaveやflacは聴けるけど、主に欧州からもたらされるクラシックが鳴るかと言えば無理。
 それでも"Hi-Res"なる黒と黄色のロゴの使用には何ら問題はない。日本国内には認証団体があるようだが、そんなちっぽけな制約なんて中国には意味が無い。

 ただ、その範囲でも録音の、レーベルによる圧倒的な差は十分感じ取ることができる。

 ご用心あれ。一度でも、その差を感じてしまうと、まず、これまで128kbpsとかで採取していたMP3が聴けなくなる。なるほど、CDから取った音なら基本的にノイズは聞こえないが、エンコーダの違い?が明らかに耳に障る。

 おかしい。MP3ってのは人の耳に原理的に聴こえ難い部分を削ったものだったはずなのに、どうしてこんなに曇ってしまうのだろうか。こもったような、ボケたような音に聴こえてしまうじゃないか。これは再生装置がロスレス音源をベースにチューニングされている、なんて理屈でもあるのだろうか。

 次に、昔LPレコードだったものをCD化したもの(をリッピングしたもの)が嫌になる。
 リマスター時の問題だろうが、やはり若干曇った音に聴こえてしまう。ノイズは無いが気に入らない。ステレオなのに二次元的な、平坦な音になってしまう。
 俗に「サンプラー」と呼ばれる各レーベルの自信作を聴いてしまうと、そして特にクラシックのそれを聴いてしまうともう何だか一瞬で中毒になる。聴こえてくるのはリズム&メロディーだけではなく、弦を押さえる音、タクトが空気をかき回す音、演奏者の息遣い、楽器が構造的に発生させる操作音。それらのファクターが無い録音は、映像で言うとリアルと3DCG程の違いがある。

 そして、音楽を楽しめなくなる。楽しめるのは音になる。そうなるとオーケストラのように複雑な音の迷路が楽しくなる。ピアノ曲でも、弦をハンマーが叩いて出す振動の「溝」を辿るのに一所懸命になる。

 ただ、それらは悪い事ばかりではない。今、メディアによって縛られている可聴域外には、新しい表現の場があるってことだ。
 良い録音は、あたかもオーケストラの指揮者が聴いているような、あるいは楽器のパートを渡り歩いているような錯覚をもたらす。これは演奏家を家に招いて行うコンサート以上のことが可能になるってことだ。

 そんな録音がはびこって、ジャンル的に痛手を被っている音楽分野はテクノかと。既に当時のシンセサイザーをオーバーサンプリングして十分な音質であり、下手に自動演奏させると楽器のアラが見えてしまう(それも味だが)。今、その分野に居た人は盛んに打楽器や弦楽器でのアレンジを工夫し、人の声も加えたりして可能性を探っている。それはそれでなかなか面白い。原曲のリリース時期は前世紀でもなかなか楽しい。まあ、テクノなら、テクノだから、人の可聴域外で感動させてくれるようになることを願っている。
 それ以外の、例えばバブル時代のポップスのアレンジの何と単純なことか。
 また、乗り合いCD、つまり過去の録音を使いまわして作っているようなCDの音質の悪さが目立つ。そんなCDは不思議と悪い音源に揃えてリリースされるようだ。音の悪さが揃っている。

 閑話休題(…のつもりはないけれど)

 前回、ハイレゾを語るライターは命がけ、的なことを書いた。
 そのため賢いライターは直接「音」の良否を語らない「逃げ」の話法を用意しているのだが、ライターでは無い私も一つ覚えの猿知恵を使い回している。私の場合、昔の「テープ」の音の話にすり替えるのがそれだ。

 今では知らない人もいると思うが、昔は磁気テープに音を録音する機械があった(笑)。最も普及したそれはカセットテープと呼ばれる手のひら大のプラスチックケースに小さなリールを二個納め、機械側にある二本の貫通軸にそれぞれリールの中央の孔を通し、ゴムのローラにより、秒速5センチ弱程度の速度で回して録音もしくは再生する。テープ幅は4mm弱で、これを4列に分けて二列ずつステレオ録音するのが一般的だった。残り二列はカセットを裏返すか、巧妙なテープ逆転機能を設けた機器によって使用される。奇妙なことだが、それによりA面、B面という昔のレコードの時代に通じる概念が発生し、誰もそれを不自然とは思わなかった。

 当初この磁気テープはせいぜいBGMに使えるかどうか程度の評価しか得られなかったが、磁気を帯びさせるための磁性体を改良し、最終的に鉄を主成分とする通称「メタルテープ」が普及する。しかし、単位時間当たりのテープ使用面積は常に一定、と言うのが庶民のサイズだった。これに対して、より高速にテープを回し、大きな磁気ヘッドで読み書きするテープ装置は舞台や音楽業界では普通に用いられていた。
 そう、私の世代は、音楽的にはこの「カセットテープ」からたまたま始まる。そこから逆にオープンリールに動く世代である。その前に庶民相手の楽器屋が二倍速で4トラックのミキサー付きカセットテープレコーダ、いわゆるマルチトラックレコーダーの洗礼を受ける。これだとテープが規定時間の1/4で無くなってしまうが、トラック数が倍になることで当時のギター小僧なんかに重宝がられていた。でも、バンドにはギター、ベース、ドラム、キーボード、ボーカル、が最小だったので中途半端だったのは否めない。
 そうして最終的には私もSONYのTC-R何たらと言うオープンリールの音楽用(とは言っても一般向けの)録音再生機器を所持していた。ただ、30cmリールのテープが馬鹿高く、いつも再生品(この再生、ってのは中古、ってことで、安げなプラスチックのリールで売られていた)を使っていた。レコーディング業界では幅が数センチ(正確には数インチ)のものが使われていたが、しかし、カセットテープに慣れた耳には明らかな音質差があった。

 そう、ここまでが長い前置き。
 肝要なのはテープを浪費するオープンリールの方が、カセットテープよりはるかに「濃密」な音を出すってことだ。ノイズが無いわけではない。例えばFMラジオの録音をしたとして、たまたまオープンリールに録音したときの感度が悪かったとしよう。でもオープンリールの音は艶があってカラフルに見えた。
 128kのmp3は、原理的には人間の耳に聞こえにくい音を削っているはずだが、CD音を直接聞けばほっとするし、自由を感じる。ハイレゾなら更に先があるに違いない。

 しかしなー、カセットテープからダビングした朗読のMP3、聴くのつらいなー。もうテープ捨てちゃったんだ。