勇気が出るデザイン

20080905 20080727 勇気が出るデザイン:BD-5

 私がインダストリアルデザインと言うものを意識し始めたのはアップル社のMacintosh SE/30を購入した後である。マックを買った後にうまくアップル社のアピールに乗せられてそのデザイン(このデザインの言葉の意味にはFinderのデザイン=設計も含んでいる)を優れたものと受け入れ、後生大事にしまっている。さすがに性能面ではもはやエミュレータの方がはるかに早い。

 最近インダストリアルデザインと言うものは、単にそれを使う人だけを幸せにするものではないと考えるようになってきた。優れたデザインは、それが自分が住むこの世の中にある、と言うだけで生活に潤いをもたらす、と。

 思い返すと私にとってのそれは、Macintosh以前にあった。原点は飛行機のBD-5である。今、その模型を実家から自分の家に持ち出してつくづくとそう感じている。この飛行機は「製作者としての」自分の目標である。いや、世の中に製作物なんて何も出していない私が言うのが変なのは重々承知だが。
 Bede Design社が設計したこの軽飛行機は、当初一人乗りのプロペラ機だった。飛行機、と言うよりも離陸可能なモーターグライダーと言っても良い。しかし、エンジンの改良によって主翼は切り詰められ、更にはジェットエンジンも載ってアクロバットチームも編成された。かの007の「蛸みたい」なる映画にも出ている(らしい)。
 しかし、秀逸なのは何と言っても無駄がなく、かつ優美な曲線で構成されたボディデザインである。一人乗りでその両脇にはもう外壁が来ている。前車輪が格納されるのは操縦者の足の間だし、エンジンは背中。プッシャー機であるからこそその優美なボディラインが強調され、プッシャー機であるが故にエンジンがそこに納まったわけである。前面下方からの眺め、尾翼上方からの眺め、真横、どこから眺めても飽きが来ない。
 飛行機を自家用ではほぼ持てない国に住む私にとっては羨ましいことに、この飛行機はキットで売られていた。検索すれば幾らでも製作中の写真が出てくる。(でも皆古い)
 これほど優れた曲線はあまり無い。
 本当はエンジンにとって見れば、そしてその操縦安定性から見ればフロントにエンジンを載せて、フロントのプロペラで飛ぶのが最も効率的で安全なのかも知れない。しかしこの優れたデザインはそれらを全てねじ伏せて、有無を言わさず「美しい」と表現される。

 「美しい」で思い出したことがある。自転車のデザインである。昔々、女性用お買いもの自転車と言うカテゴリが確立した頃、ブリジストンの女性向シリーズに、良いものがあった。もう名前すら忘れているが、当時はびこりだした安かろう悪かろうの自転車を威圧するほどに「美しい」自転車があった。二つの車輪、足をあまり上げずに済むトップ(?て言うのか)チューブなど基本的な部品レイアウトと構成は何も変わらない。しかし、そのトップチューブの曲線が良かった。他の女性用自転車の中で初めて「美しい」と言える自転車であった。
 自転車つながりで、じゃあ私が乗り継いで来たような自転車はどうか。学生の頃少々無理をして10万円ほどもするスポルティーフ、と呼ばれるやっぱり石橋さんの自転車を買った。当時最新のクロモリダブルバテッドチューブは、今レトロ感とともに再び人気を博している。いや、ゴミとみなされる車体の方が遥かに多いが、スポルティーフとは長距離のポタリングを楽しむ軽快車、と言えるかもしれない。知っている人だけが知っている、コンチネンタルカットラグ、細いフレーム、パイプで組まれた小さなフロントキャリア、アルミ製の泥除け、フレーム直付けのシフトレバーやブレーキ、P.O.ブルーの若々しい塗装。その全てが優美で今考えても美しい。現在も私は一台のクロモリロードレーサを有しているが、少々そっけなさすぎないか?

 なにはともあれ、美しいデザインと暮らすことは贅沢である。眺めるだけで日々を楽しく暮らしていけるような、日々の生活に彩りを与える、いや人にあらゆる面で戦う「勇気」を与えてくれるデザインは確かに存在する。